多義語の覚えかた
- Portal英語塾
- 3月21日
- 読了時間: 6分
1. 多義語とは
「多義語」とは、辞書で調べると「いくつもの意味を持っている言葉」とあります。
日本語にも多義語はあります。
日本語ネイティブの人が、以下の日本語を外国人に説明しようと思うと大変です。
日本語の多義語の例
「あがる」
動作のイメージが多岐にわたる、日本語多義語の代表格です。
物理的な移動: 「階段をあがる」
完成・終了: 「原稿があがる」「風呂からあがる」
心理状態: 「緊張してあがる」
天候: 「雨があがる」
効果・収益: 「成果があがる」「利益があがる」
「甘い」
味覚から性質まで、評価の軸が広がる言葉です。
味覚: 「砂糖がたっぷり入っていて甘い」
性格・態度: 「子供に甘い」「考えが甘い」
精度: 「詰めが甘い」「ネジの締まりが甘い」
感覚: 「甘い誘惑」
「引く」
英語の pull や draw に近い感覚を持つ多義語です。
物理的な動作: 「綱を引く」「ドアを引く」
線・図形: 「図面に線を引く」
算数: 「10から5を引く」
病気: 「風邪を引く」
辞書: 「辞書を引く」
感情: 「ドン引きする」
「かかる」
日本語の中でも意味が多い多義語です。
懸垂: 「壁にカレンダーがかかっている」
作動: 「エンジンがかかる」「鍵がかかる」
時間・費用: 「1時間かかる」「1万円かかる」
接触: 「水がかかる」「迷惑がかかる」
対象: 「医者にかかる」「罠にかかる」
2. 多義語の覚え方
これらの多義語は、机にかじりついてでも暗記するしかないのでしょうか?
私には無理です。
しかし、諦めたら記憶に残せません。どうしましょう?
無闇な暗記に頼らずに、未知語であっても推測できるようになるくらいの覚え方、というよりも「考え方」があります。
それは、「共通項を見つける」ことです。
さきほどの日本語ももう一度見てみましょう。
「あがる」
物理的な移動: 「階段をあがる」
完成・終了: 「原稿があがる」「風呂からあがる」
心理状態: 「緊張してあがる」
天候: 「雨があがる」
効果・収益: 「成果があがる」「利益があがる」
この5つの用法に、何か「共通項」はあるでしょうか?
「階段をあがる」と「風呂からあがる」は、上に向かって移動することがわかります。そもそも「あがる」は「上がる」ですので、「上」の方向を示しています。
「雨があがる」は、落下していた雨粒が落ちてこなくなる。
「緊張してあがる」は、緊張感や不安感が頭の方に上がってくる。
「利益があがる」は、利益を表すグラフが上昇する。
このように考えると、「あがる」とは、
「下から上へ移動する」(具体)
「ある段階が完了して次のステージ(上)へ行く」(抽象)
ことを表しています。
「甘い」の「共通項」は何でしょうか?
味覚: 「砂糖がたっぷり入っていて甘い」
性格・態度: 「子供に甘い」「考えが甘い」
精度: 「詰めが甘い」「ネジの締まりが甘い」
感覚: 「甘い誘惑」
「砂糖がたっぷり入っていて甘い」ものは美味しいです。
「子供に甘い」のは、子供にとっては心地よいです。
つまり、「抵抗が少なく、心地よい(または厳しさが足りない)」ことが「共通項」になりそうです。
「引く」の「共通項」は何でしょうか?
物理的な動作: 「綱を引く」「ドアを引く」
線・図形: 「図面に線を引く」
算数: 「10から5を引く」
病気: 「風邪を引く」
辞書: 「辞書を引く」
感情: 「ドン引きする」
英語の pull や draw に近い感覚を持つ多義語ですので、
「綱を引く」「ドアを引く」は、綱やドアを自分の方に引き寄せること。
「風邪を引く」は、風邪を自分の方に引き寄せること。
つまり、「自分の手元の方へ寄せる」「ライン(境界)を動かす」ことが共通しています。
「かかる」の「共通項」は?
懸垂: 「壁にカレンダーがかかっている」
作動: 「エンジンがかかる」「鍵がかかる」
時間・費用: 「1時間かかる」「1万円かかる」
接触: 「水がかかる」「迷惑がかかる」
対象: 「医者にかかる」「罠にかかる」
これまで見てきた「あがる」などと比べると、何の共通項があるのかわかりにくい単語です。「歩く」のようなはっきりした動作でも、「ある」のような純粋な状態でもない、非常に不思議な立ち位置の言葉です。
日本語学者によると「かかる」の根源的なイメージは
「ある物が別の物に、重力や勢いによって寄りかかり、離れない状態になること」
のようです。
このイメージが抽象化されることで、多様な意味が生まれます。
物理的付着: 壁に絵がかかる(寄りかかって固定される)
心理的付着: 気にかかる(心がその事柄に引っかかって離れない)。
負担・消費: 費用がかかる(自分の資産がその対象に乗っかる)。
言語学者の金田一春彦氏による動詞の4分類にあてはめると、「かかる」の多くは「瞬間動詞(変化動詞)」に分類されます。
なぜ「動作」でも「状態」でもなく感じるのか? 「かかる」という現象そのものは、一瞬で完了する「変化」だからです。
罠にかかる(かかった瞬間に状態が変わる)
エンジンがかかる(止まっていたものが動く状態へ切り替わる)
一度「かかった」後は、その「変化した後の状態」が続くため、私たちはそれを「状態」のように感じてしまうのです。
「かかる」は「かける(他動詞)」と対になる自動詞ですが、その中でも「対象の意図に関わらず、結果としてそうなる」というニュアンスが強い言葉です。
「なる」に近い性質があり、 「(意志を持って)する」のではなく、状況や力学の結果として「(気づけば)そうなっている」。この「自分ではコントロールできない感」が、英語の take や cost、あるいは受動態に近いニュアンスを生んでいます。
確かにcostという動詞は、辞書を引くと【受動態にしない】と出てきますが、【状態動詞】とも書かれています。
The book cost me 2,000 yen.
「その本は2000円した」
この英文を進行形や受動態にすることはできません。
費用が「かかる」のも、罠に「かかる」のも、自分から進んでやってるわけではありません。「何かが対象にドサッと乗っかって、影響を与えている」という同じ感覚なのです。
「鍵がかかる」のは、「かかっていない状態」から「かかった状態」に変化させるための一瞬の変化を起こし、その後は施錠された状態が続きます。
というわけで、「かかる」の共通項は、
「何かが別のものにバサッと乗る・引っかかる・作用を及ぼす」
になります。
まとめ
この「共通項」が、いわゆるコアイメージ(核となるイメージ)です。このコアイメージを理解すると、一見すると何の関連もないような表現にも「共通項」があり、その単語が表す「意味の守備範囲」が広がった結果、さまざまな意味を持つようになったことがわかります。
多義語の意味を無理やり覚えようとするのではなく、共通項を見出し、コアイメージをつかむことで、その単語の「本来の意味」を理解し、そこから多方面に用法が広がったと考えると覚えやすくなりますし、忘れたとしても自分でたどることもできます。
コメント