単語の「ストーリー」(1) board
- Portal英語塾
- 3月23日
- 読了時間: 9分
1. 単語が持つ「ストーリー」を発見する
単語にはそれぞれ「ストーリー」があります。
「単語がたくさん集まってストーリーになるんじゃないの?」と思いますよね。
単語のストーリーというのは、その単語の生い立ちのようなものです。時代の流れとともに、その単語が表す意味が変わっていくようなことは、どの言語でも起こります。
例えば
fortnight「2週間」
この単語は語源的に、〈fourteen + night〉になっています。直訳で「14夜」です。つまり、14日間なので「2週間」になります。
しかし、fortnightが持つストーリーは「2週間」でおしまいです。これ以上、話が拡大することはありませんでした。そのため、意味が1つだけになりました。
2. boardの「ストーリー」
何の関連性があるのかよくわからないくらいに多様な意味を持つ多義語があります。それが〈board〉です。〈board〉は「板」です。スノーボードなどのボードです。
ここでは、その「板」がどのような旅をして多義語になったのか、その「ストーリー(コアイメージ)」を追いかけていきます。
この物語を読み終えた時、みなさんの頭の中には、バラバラだった〈board〉の意味が、1つの有機的なマップとして繋がっているはずです。暗記は不要です。ただ、その物語を理解するだけでいいのです。
〈board〉を辞書で調べると、以下のような「訳語」が出てきます。
名詞
(1)板、台
(2)会議、委員会、役員
(3)板材
(4)(下宿・ホテルなどでの有料の)食事、賄い
など
動詞
(1)〈バス・飛行機・列車など〉に乗り込む、搭乗する
(2)〈扉・窓など〉に板を張る、~を閉鎖する
(3)(賄い付きで)〈人〉を下宿させる
(4)〈敵艦〉に横付けする、兵を乗り入れさせる
このように、さまざまな意味が掲載されています。これを覚えられますか?頑張って暗記しますか?
次の英文の意味は何でしょうか?
She has been appointed to the board.
appointは「指名する」という意味です。したがって、「彼女はboardに指名された」になります。
大抵の人は、boardを辞書で引いて、「彼女は◯◯に指名された」の意味で通じそうな意味を当てはめて考えます。
「彼女は板に指名された」では変です。「彼女は委員に指名された」だと通じます。そこで、このboardの意味は「委員、役員」だと考えるわけです。
しかし、なぜboardという単語は「板」「委員」「食事」という全く別の意味になるのでしょうか?不思議に思いませんか?
はるか昔に高校生だった私は、このような単語が非常に嫌いでした。日本語と英語が一対一で対応してくれないと覚えにくいと思っていました。
しかし、言語も民族も違うのだから、思考法も違うのは当然です。ということは、日本人が英語を学ぶ際には、英語のネイティブの思考過程を追いかける必要があります。
では、ネイティブの思考過程、boardが持つ「ストーリー」はどんなものでしょうか?
3. 語源から広がるboardの「ストーリー」名詞編
boardの語源は「(船横側の)板」です。ここで重要なのは、ただの「板」ではないということです。船の横の板です。これがストーリーの後半からじわじわ効いてきます。

この先「(船横側の)板」が、一体どうしたら「食事」などの意味になるのかを考えます。
まず、名詞の1つ目の意味
(1)板、台
は非常にわかりやすいです。
ここでただの「板」だけではなく、「台」という意味もあるのがポイントです。
「板」を水平にしたら、その上に物を載せることができます。すると「台」になります。「板」の用途としての「台」を表すようになったわけです。
この「板」を使った「台」に脚をつけたらどうなりますか?テーブルになります。このように、「板」の使途を拡大していきます。
Shorter Oxford English Dictionaryによると(以下同)、“A table used for meals”とあります。しかし英和辞典では「食卓」の意味は古風であるとの記述があります。つまり、現代ではboardをtableの意味で使うことはないようです。
ここからさらに「板」の使途を拡大していくと、 “Food served at a table”「テーブルに出される食事」の意味になっていきます。もともとは「板」だったのが、「食卓」になり、その「食卓」の上にだされる「食事」を表すようになったのです。
この「食事」の意味は、普通の家庭の食事の意味を離れていきます。 “the provision of daily meals (and often also lodging), especially at an agreed price or in return for services”「特に合意した額で、あるいは奉仕と引き換えに、毎日の食事(しばしば宿泊も)を支給すること」を表すようになりました。これが「(下宿・ホテルなどでの有料の)食事、賄い」になります。
さて、「板」を「台」にして脚をつけて「テーブル」にしました。テーブルがあるなら椅子もあるでしょう。その席に着いたら何か食べたくなりますが、いつも食事をするとは限りません。
食事をせずに複数の人が席についたら何が始まるでしょうか?おそらく会話です。今後の予定などの話題になったり、真面目な話だったりするかもしれません。重要事項を決断することもあるでしょう。
そうすると、 “A table at which meetings are held”「会議が開かれるテーブル」を表すようになります。そこから “the meeting of a council round a table”「テーブルを囲んだ議会の会議」となり、「会議」の意味も表すようになり、これに出席する人物である「委員」を指すようになりました。

4. 語源から広がるboardの「ストーリー」動詞編
さて、〈board〉には動詞もあります。以下のような意味でした。
(1)〈バス・飛行機・列車など〉に乗り込む、搭乗する
(2)〈扉・窓など〉に板を張る、~を閉鎖する
(3)(賄い付きで)〈人〉を下宿させる
(4)〈敵艦〉に横付けする、兵を乗り入れさせる
もともと〈board〉の語源は「(船横側の)板」でした。
動詞の場合の意味は、“originally, come close up to or alongside (a ship), usually for the purpose of attacking”「もともとは、たいてい攻撃する目的で、船に近づくこと」 だそうです。
「(船横側の)板する」ということは、上の(4)「〈敵艦〉に横付けする、兵を乗り入れさせる」が近いです。今では4番目の意味ですが、これが本来の動詞の意味だったようです。海戦や海賊関係者が使いそうな動詞ですね。実際に次のような例文があります。
To decide the battle by boarding.
「相手の船に乗り込んで戦いを決する」
ここから現代人が使いそうな意味に広がっていきます。 “go on board of, embark on (a ship)”「(船に)乗船する、搭乗する」という意味になります。船に乗る時には、船の側面から乗船するので、「(船横側の)板」に向かって行くイメージです。

船に乗り込むだけではなく、他の乗り物にも話しが拡大していきます。 “enter (a train, vehicle, aircraft, etc.)”「(列車・乗り物・飛行機など)に入る」というように、側板にドアがあるタイプの大きい交通機関の乗り物に使うようになりました。
もともと「板」なので、「板」のイメージのままの動詞もあります。 “cover or provide with boards”「板で覆う」、 “close up with boards”「板で閉鎖する」というものです。
I went down to the corner shop. It was boarded up and nobody answered the bell.
「角の店に行ったが、板張りされていて、呼び鈴に誰も応答しなかった」
名詞の〈board〉に「食事、賄い」がありましたが、これを動詞にしたものがあります。 “receive daily meals and usually also lodging”「たいてい宿泊とともに毎日の食事をもらう」というものです。ホテル以外で宿泊と食事が毎日出るのは、寮などです。そのため「下宿する」という意味になります。
They were sent to the convent to board, for there was no school closer.
「彼女たちは下宿するために女子修道院附属校に送られた。というのも、近くに学校がなかったからだ」
また、 “provide with daily meals and usually also lodging especially at a fixed rate”「特に定額で毎日の食事と宿泊を提供する」となり、食べる側だけではなく、食事を提供する側の動詞にもなりました。次の例文はシェークスピアの一節です。
We cannot lodge and board a dozen or fourteen gentlewomen.
「12人や14人ものご婦人方を、泊めて食事まで出すなんてことは、できません」
5. 語源から広がるboardの「ストーリー」イディオム編
さて、〈board〉を使った不思議なイディオムもあります。
above board「〈取引などが〉公明正大な、正直な」
go by the board「〈計画などが〉完全に失敗する、船外に落ちる」
on board「(バス・列車などの)車内に、船内[上]に、飛行機に」「〈飛行機・船など〉に乗って」
(1) above board
above boardを直訳すると「板の上」になりますが、何がどうしたら「正直な」になるのでしょうか?考えてみてください。
「板の上」が「正直」なら、「板の下」だとどうなるのでしょうか?反対の意味にとると、「正直ではない、不正な」になりそうです。
この表現は昔のトランプゲーム(賭け事)が起源になっています。〈above board〉だと、「自分の手がトランプをするテーブルの上にある」ことを表します。手をテーブルの下に隠すと、袖の中から別のカードを出したり(イカサマ)、仲間に合図を送ったりできます。しかし、常に手を「板の上」に出していれば、不正をしていないことが全員に見えるため、「正直で隠し事がない」という意味になりました。
この〈above board〉の反対は〈under board〉になりそうですが、現代では〈under the table〉「不正に、賄賂として」というものがあります。テーブルの下だと見えないので、隠し事をしていることを表します。
They made a deal under the table.
「彼らは裏取引をした」

(2) go by the board
これがどうしたら「失敗する」になりますか?
直訳すると「板のそばを行く」になります。かつての帆船時代、嵐や戦闘でマストが折れた際、その巨大な柱が「船の側面(board)をかすめて、そのまま海へ落ちていく」様子を go by the board と呼びました。
船にとって最も重要な「マスト」が、船の脇を通って海に捨て去られると、航行不能になります。そこから「計画の破綻」に意味が拡大します。そこから転じて、計画や規則、チャンスなどが「見捨てられる」「失敗に終わる」という意味で使われるようになりました。
(3) on board
また、〈board〉は単に足元の板だけでなく、「内と外を分ける境界線」として機能していました。「板を立てて壁にして境界とする」イメージです。そこから、〈on board〉「境界線の内側にいる(乗っている・仲間である)」から「乗り物に乗って」を表します。
単語1語で「乗り物に乗って」いることを表すこともできます。それが〈aboard〉です。これは〈a- + board〉で、〈a-〉はonの意味を表す接頭辞です。〈on board〉 が 〈aboard〉になったのと全く同じ仕組みで生まれた単語が、他にもたくさんあります。
asleep = on sleep(眠っている状態の上にいる)
ashore = on shore(岸の上にいる → 船から上がって)
alive = on life(命の上にいる → 生きている)
afar = on far(遠くに → 遠くから)
〈a-〉がつくと、「~の状態にある」というライブ感が出ます。
まとめ
boardの語源は「(船横側の)板」でした。ここから「板」をどのように使うか、その板の上で何をするのか、という具合に様々な方向に「意味の守備範囲」が拡大していきました。このように考えると、boardの意味を丸暗記しなくても、boardが持つ「ストーリー」に沿って考えることで、いつでも思い出せるようになります。

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